おとなのための絵本シリーズ

人の輪の中で

人の輪の中で(本文)

日本の豊かな農村に、与兵衛という名の男の子がいました。大家族の中で育った与兵衛は、裕福ではないものの、おおらかにのびのびと毎日を過ごしました。 彼の幼い胸には、いつか遠い都会へ出て行きたいという、ひそかな夢がありました。
 
青年になった与兵衛は故郷を離れ、念願の都会での生活を手に入れます。煉瓦造りの建物が並ぶ街で、彼は学び、働きました。多くの人が行き交う賑やかな雰囲気の中で、与兵衛は将来への大きな夢を抱き、希望に満ちて活動を続けました。
 
やがて大人になった与兵衛は、大きな会社で重要な役割を担うようになりました。彼は、緊張感のある仕事を、強い責任感をもってやり遂げました。社会の中で認められ、年齢を重ねるごとに、確かな地位を築いていきました。
 
さらに時を経て、社会的な地位を高め、与兵衛は政治的な活動にも関わるようになりました。彼の職場は、当時としてはとても立派な、重厚な煉瓦造りの建物にありました。与兵衛の人生は、順風満帆に見えました。
 
与兵衛は自分の生活や、担っている仕事の大きさにいては満足していました。しかし、彼の心の奥底には、小さな寂しさがありました。何かにすべてを賭けて、情熱を注ぐような経験がなかったからです。
 
彼は、あらゆることに携わり取り組んできました。そのおかげで広い世界を知ることができましたが、特定の分野を深く極めることはありませんでした。「もし、何かに集中していたら、違う人生があったのではないか」、そんな小さな悔いが、胸をよぎることもありました。
 
それでも与兵衛は幸せを感じていました。生涯を通じて、多くの温かい人間関係に恵まれたことが、彼にとって最大の宝でした。どれほど成功しようとも、人生を豊かにするのは人との繋がりなのだと、与兵衛は深く実感していたのです。
 
ひとりきりになることのなかった人生。その豊かな「縁」こそが、与兵衛が歩んできた道のりを照らす、温かな光でした。深い感謝を味わいながら、与兵衛は穏やかな晩年を過ごしたのでした。
 
【現在の魂の気づき】
「仕事や生活に不満はないけれど、専門家になれなかった寂しさ」というのは、魂が繰り返してきた感覚のひとつだと気づきました。世の中のあらゆることに興味を持つ性分だからこそ、特定の分野に深入りせず、自由な立場でいられるよう、無意識に選んできたのかもしれません。
そして、多くの人間関係に恵まれて感謝していることも、今と同じです。与兵衛の晩年では、名誉や財産の価値は認めつつも、本質的に人生を豊かにするのは、まわりの人とのつながりだと実感する場面がありました。この感覚は、今後も大切にしたいと感じました。