リリアの秘めた想い
					
					
					
					
					
					
					
					
					
					
					










中世のオーストリア地方に、リリアという名の少女がいました。彼女は、大勢の家族と暖炉のある大きな家で暮らしていました。父と母、兄弟姉妹と、そして優しい叔母。リリアの家は、いつも賑やかで、あたたかい光に満たされていました。
 
父は大学のような場所で植物の研究をし、生徒たちに教えました。母は子どもたちの世話をしながら針仕事をする、穏やかな日々。リリアは25歳前後の娘で、おとなしいけれど芯の強い心を持ち、家族を何よりも大切に思っていました。
 
リリアには、父が決めた婚約者がいました。父の部下にあたる、信頼できる真面目な男性で、もうすぐ結婚の予定でした。家族の幸せを願うリリアは、その結婚を素直に受け入れようとしていました。
 
しかし、リリアには密かな想いがありました。ある集まりで出会ったアンという男性のことを、ひそかに慕っていたのです。彼はとても知的で本を愛する人でした。二人は時々古い書庫で密かに会い、アンが本を読むそばで、リリアはただ静かに彼を見守っていました。その静かな時間は、彼女にとってかけがえのないものでした。
 
アンもリリアも、互いに惹かれ合っていましたが、その気持ちをおさえていました。リリアは結婚を控えた身であり、アンもそれを知っていたからです。やがてリリアは、父の決めた相手と結婚式を挙げました。
 
結婚してからは、アンを見かけることも少なくなりました。10年ほどたったある日、アンが亡くなったという噂を耳にします。体が丈夫でなかったアンは、病気で生涯を終えたようでした。リリアの心は深く痛みましたが、アンが独身のままだったことを知り、どこかほっとする気持ちもありました。
 
リリアが50歳になった頃、今度は彼女自身が病気にかかってしまいます。体は日に日に弱っていきましたが、愛する家族はいつもそばにいてくれました。その温もりと優しさに支えられながら、リリアは静かに病と向き合っていました。
 
1年近い闘病の末、リリアは家族に見守られながら静かに息を引き取りました。彼女の人生には、秘めた想いと、満ち足りた家族の愛がありました。リリアは、その両方を胸に抱きしめながら、安らかな眠りについたのでした。
 
【現在の魂の気づき】
中世という制限の多い時代に、慎ましく堅実に生きたリリア。対して今の私は、一見自由に生きているように見えます。けれど、リリアの人生を振り返って気づきました。私もまた、見えない制限の中で生きていたのだと。
無意識に「あれはダメ、これはできない」と自制してきたこと。いつも抱えていた理由のわからない不安。それは、自分を信じられず、自分の選んだ人さえも疑っていたからだと気づきました。
リリアの人生は、私に語りかけてくれました。「自分の心に制限を作らないで」と。
